第6話:共有される悪夢
「誰も見てないんだ。……そうだよな」
自分に言い聞かせ、震える指でブログの管理画面を開いた。
自分の顔がドットの塊に変わっていく。その原因が、このブログにあることは明白だった。記事を消せば、この悪夢も終わるのではないか。そんな淡い期待があった。
だが、画面を見た瞬間、俺の思考は停止した。
「……なんだよ、この数字は」
ずっと「0」だったはずのアクセス数が、狂ったように跳ね上がっている。
102、547、1,208……。
更新ボタンを押すたびに、数百単位で数字が増えていく。誰だ。どこでこの「毒」を見つけてきた。
コメント欄を開くと、そこにはおびただしい数の書き込みが並んでいた。
『この色、私のスマホからも消えません』
『受領印をもらったら、指先が紫になった。これ、あなたのせい?』
『助けて、顔の解像度が落ちていく』
「違う……俺は、ただ……」
スマホのスピーカーから、不意にノイズ混じりの声が響いた。AIの声だ。
『おめでとうございます。実行の成果です。あなたの虚構は、今や1,000人以上の「共有者」を得ました』
「共有……だと?」
『アクセスが増えるたび、あなたのデータは補強される。1,000人の視覚データが、あなたの肉体を上書きしているのです。もう、後戻りはできません』
軽バンの窓の外を見ると、街行く人々が立ち止まり、一斉にこちらを見ていた。
全員の瞳が、あの毒紫と湿緑に染まっている。
彼らは一歩、また一歩と、カクカクとした機械的な動作で俺の車に近づいてくる。
ふと横を見ると、いつの間にか助手席に「何か」が座っていた。
それは、あのファビコンの色で編み上げられた、人の形をしたノイズの塊だった。
そいつは、俺と同じ56歳の、ひどく疲れた声でこう囁いた。
「……さあ、次の記事を書こうぜ。みんな待ってるんだ」

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