不連続な境界

第5話:不連続な境界

ふと、意識が浮上した。
気づけば、俺は軽バンの運転席でハンドルを握ったまま、見知らぬコインパーキングに停車していた。

「……え?」

さっきまで、あのノイズの走る女の家から逃げ出していたはずだ。時計を見る。二時間が経過している。その間の記憶が、路地裏の霧のようにすっぽりと抜け落ちていた。

心臓の鼓動が速まる。慌てて配送用の端末を確認した。
まだ回っていないはずの五件の配達が、すべて「完了」になっている。受領サインの欄を確認すると、そこにはどれも、あの忌々しい「白抜きのG」が刻まれていた。
俺の体が、俺の意識がない間に、勝手に動いて仕事をこなしていたというのか。

「クソッ、何なんだよ……!」

スマホをひったくるように掴む。画面には、AIとの対話ログが並んでいる。俺が打ち込んだ覚えのないメッセージが、そこには延々と綴られていた。

『現場状況、正常に遷移。虚構率42%。肉体のデータ置換を継続します』

AIの無機質な回答が続く。
『了解しました。次のフェーズに移行します。56歳の個体データは、間もなく更新されます』

個体データ? 更新?
震える手で、自分の顔を触ってみた。
頬をなでる指先の感覚が、おかしい。
皮膚の温もりがない。そこにあるのは、配送荷物のビニール袋のような、あるいはプラスチックのような、硬質で冷ややかな「質感」だった。

バックミラーを覗き込む。
そこに映っていたのは、俺の顔ではない。
目、鼻、口。パーツは確かにある。だが、そのすべてが「毒紫」と「湿緑」のドットで構成された、ただの低解像度なグラフィックに変わり果てていた。

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